「中国における、日本人旅行客の健康の保ち方」

隊長 岩城陽太郎

 「向こうでの食事には気をつけろ、なま物は口にするな、特に向こうの水は硬いか らな、一回沸かせ、うんぬんカンヌン…」と、忠告され、参加者28人(学生27人社会人1人)全員気を引き締めて臨んだはずなのに、この中国短期留学中、実に参加者の96.4%にあたる27人が、発熱や下痢など体に以上を訴えた。さらにそのうちの3人は
あまりの症状の重さに中国の病院へ入院してしまう事となる。
 今ではみんな無事に帰国しているから笑い話にもなるが、当時はそんな余裕などな
かった。朝、顔を会わすと
「腹の調子どう??」
「革命中…」
「俺も…マジ、やばい」
などといった会話がそこらで聞かれた。
 しかし、そんな重苦しい雰囲気の中、なぜか私は元気であった。むしろ便秘気味であった。日々健常者が減少していった当時は、元気である事がまるで重罪であるかのようであった。朝、隊員達と顔を会わせ
「隊長、腹の調子どう??」
「今のところ大丈夫…ごめん」
などと何故か謝り、自信無げに答える事しか出来なかった。しかし結局、私は最後まで生き残った。
 そんな私が、「異国の地での健康の保ち方」とするとちょっとおおげさ過ぎるが、「向こうで気をつけていた事」について言及していきたいと思う。
 まず基本的に私が気をつけていたのは以下の5点である。

1. 食事は3食しっかりとり、出されたものはバランス良く食べる。
2. 食後はお茶を必要以上に飲む。 
3. たとえレストランであっても衛生面においては一切信用しない。 
4. 中国人の真似はしない。
5. 水道水を口に含んだ後は必ず市販のミネラルウォーターでうがいをする。 

 1は当然であろう。日本でも同じ事が言える。ただ中国に来るとなかなか上手く出来ないようである。というのも中華料理は日本料理とは全く性格が異なり、油っこいうえに一回の食事に多種多量の料理が出てくる。そんな多い種類の中では当然自分に合った料理もあればそうでない料理もある。さらに量はそれぞれ食べきれないほど存在している。そんな環境において、普通の人なら自然と自分の好きなものしか食べないのではないだろうか。すると知らず知らずのうちに食事が偏ってしまうのである。だから意識してバランス良く食べる必要があるのだ。
 2は昨今のお茶ブームを思い出していただければ分かると思う。詳しい話は知らないが、お茶(特に中国茶)には油を分解する作用があるらしい。中華料理が油っこいことを考えれば、お茶を必要以上に飲む必要がある。
 3、4は理由が似ているので一緒に述べる。何かの本で読んだのだが、日本人が持ってない腸の微生物を中国人は持っているらしいのだ。つまり日本人と中国人ではそもそも腹の中身が違うということになる。だから、一般の中国人と同じ事をやっていても普通の日本人にとっては何も安全の保障にはならない。例えば、中国のレストラン
では席について、食器が配られる時にそれらや手を拭くための紙ナプキンが一緒に配られる事が良くある。中国人はそれで食器や手を拭くのだが、日本人である私はそのナプキンすら疑って、手を拭くのには使用せずに、日本から持参した無印良品の「除菌ティッシュー」で手を拭いた。「郷に入っては郷に従え」と言う諺もこの件に関し
ては当てはまらないと思う。
 最後に5に関して考える。冒頭の通り、中国の水道水は日本と違って硬水である。硬水というのはカルシウム塩やマグネシウム塩などを比較的多く含んでいる水の事である。当然日本とは違うから、気をつけなければならない。私はそれについてもかなりこだわった。まずは水道水はなるべく使わないようにする事である。沸騰させれば飲み水としても大丈夫だというが、3、4のところでも述べたように、我々は日本人である。無理に飲む必要はない。私の場合は市販のミネラルウォーター(700mlで30〜45円)しか飲まなかったし、お茶などを自室で飲む時ですら市販のミネラルウォーターを沸かした。しかし歯磨きやシャワーを浴びる時にはどうしたって水道水を使う事は避けられないし、使用している最中に口の中に入る事もある。そのときは必ずミネラルウォーターでうがいをした。
 以上が、中国にいる時、特別に心がけていた事である。後は、日本にいる時と同じように過ごした。
 少し面倒くさい、いちいちやってられないと思われた方は、外道ではあるが次の方法を推薦する。「早めに腹を下す。」
 というのも一回腹を下した人は免疫が出来るのか分からないが、腹の中身が1段階中国人に近くなる傾向があるようだ。この旅行でも、大部分の人が腹を下したがその後は音沙汰なくなったというケースは多く見られた。
 つらつらとここまで書いてきたが、残念がら、こういったいわば「合格体験記」的要素の話は上手くいった人が書けば何でもアリという感じになってしまうのは否めない。当然、私よりも体調管理に気を配った人はいると思う。結局は個人差によるものだろう。異国に来ているのだ、おかしくなる時はおかしくなる。それくらいの開き直りが一番必要なのではないだろうか。

 

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